退院時に、嚥下(えんげ)食の栄養指導をすることになりました。
どのような指導をすればよいでしょうか?
病院では、嚥下食の栄養指導をすることもあります。調理指導、注意点などをお話します。
ポイントをお話しますね。
嚥下食の指導となると、給食業務に携わることの少ない方やまだ経験の浅い新人の方はイメージがわきにくいですよね。
そんな中、「栄養指導に入って」と言われても不安に感じますよね。
今回は安心・安全な嚥下食についての栄養指導のポイントについてお話しします。読んでいただければ、栄養指導のポイントが一通りわかるようになるかと思います。
嚥下食とは?
嚥下食・介護食・刻み食・ペースト食・ソフト食・経口移行食…様々な名前で呼ばれることが多いと思いますが、
「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」
が基本とされています。
これは、 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 という学会が発表しているものです。
ここでの嚥下調整食分類というピラミッド型の食事内容が基本となります。
嚥下調整食分類 コード は上から番号が付いています。tはトロミのt。jはゼリーのjです。
- 0t
- 0j
- 1j
- 2-1
- 2-2
- 3
- 4
以下、コード別の概要です。
嚥下調整食分類 0t
0tはトロミ水です。
均質で、付着性、凝集性、かたさに配慮したトロミ水です。
さらに、たんぱく質含有量が少ない、トロミ水(中間のトロミあるいは濃いトロミ)とされています
なぜ、”たんぱく質が少ない”かというと、万が一誤嚥した場合に残ったもので細菌繁殖のリスクがあるためです。
嚥下調整食分類 0j
0jはたんぱく質の少ないゼリーで、スライス状にすくうことができ、離水が少ない食品です。
スライス状にすくうことができるというのは、スライス状にすくうことで飲み込みやすいからです。
トロミ水のようなドロドロっとしたゼリーと差別化した表現でもあります。
経口開始時の訓練に使用することが多いです。
このような条件に当てはまる食品が少ないので、
エンゲリードという既製のゼリーを使用している病院が多いかと思います。
嚥下調整食分類 1j
1jはたんぱく質含有は問わないゼリーです。ゼリー・ムース・プリンが該当します。
主食:ミキサー粥・重湯ゼリー など
嚥下調整食分類 2-1
2-1はピューレ・ペースト・ミキサー食など、均質でなめらかでべたつかず、まとまりやすいものです。
主食:粒のない重湯や付着性の低い(べたつかない)ペースト粥
各施設での名称例:
- ミキサー食
- ペースト食
- ピューレ食
- ソフト食*ソフト食は各施設で概念が異なる場合もあるので注意しましょう。ペースト食を形成したような食品であれば、嚥下調整食分類2です。常食よりも食べやすくした食事なら、嚥下調整食3~4となります。
嚥下調整食分類 2-2
2-2ピューレ・ペースト・ミキサー食などでなめらかでべたつかず、まとまりやすいもの。不均質なものも含む食品です。
2-2は2-1よりも若干、粒が残っていたり不均質です。
各施設での名称例:
- ミキサー食
- ペースト食
- ピューレ食
- ソフト食*ソフト食は各施設で概念が異なる場合もあるので注意しましょう。ペースト食を形成したような食品であれば、嚥下調整食分類2です。常食よりも食べやすくした食事なら、嚥下調整食3~4となります。
嚥下調整食分類 3
3は、形はあるが、押しつぶしが容易、食塊形成や移送が容易、咽頭でばらけず、嚥下しやすいように配慮されたもの。多量の離水がない。食品です。
主食:離水に配慮した粥
各施設での名称例:
- きざみ食
- ソフト食 *ソフト食は各施設で概念が異なる場合もあるので注意しましょう。ペースト食を形成したような食品であれば、嚥下調整食分類2です。常食よりも食べやすくした食事なら、嚥下調整食3~4となります。
実は『きざむ』だげではばらけやすい食品になってしまうこともあるため、あんをかけたりしてまとまりが良いものと認識するほうがよいと思います。
嚥下調整食分類 4
4は、かたさ・ばらけやすさ・はりつきやすさなどが無いもの、箸やスプーンで切れるやわらかさの食品です。
主食:軟飯・全粥
名称それぞれ
病院ごとにそれぞれいろんな名前の食事があるのが現状です。
各施設で、嚥下調整食分類のどれに該当しているのかを決めていると思います。
(わからない場合は、栄養科内で確認しましょう!)
ですので、他施設に移る場合やデイサービスを利用する場合、どの食事を食べていたか?の情報提供が必要となります。嚥下調整食分類なら全国共通ですので、こちらのコードも併せて栄養指導時に伝えるようにしましょう!
2021年9月7日(火)に最新のものが発表されました。詳しくはこちら。
「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」
ヘルシーネットワークさんのパンフレットはほんとに見やすくて大好きなので、おすすめしたいです!
基本は安全性
これらに出てくる・付着性・離水しない・粒がない・まとまりがよい等の表現は全て、安全性を表す表現です。健常時はそのような些細なことも、摂食・嚥下能力の低下により誤嚥につながるからです。
なぜ指導をするのか
多くの目的は、窒息・誤嚥の予防です。それらにより再入院とならないことです。
ですので、食事の作り方も重要ではありますが、『嚥下食の意味』を説明・理解してもらうようにこころがけたいですね。
指導対象者は介護者・家族
嚥下食の指導する場合、多くは本人ではなく、その介護を行うご家族が多いです。
ですので、その家族構成等も大きくかかわります。
介護するキーパソンについても以下の事柄を把握しておきましょう。
例えば、
旦那さんがキーパーソンの場合、高齢だったり、調理が不慣れである場合が多いので、より簡単にできることが重要となります。介護食品を購入していただくことも一手ですが、介護はお金がかかるので、どの程度が許容範囲であるかも確認しながらすすめます。
また、運転ができないなどで、買い物の頻度がない場合は缶詰や賞味期限が長い食品を選ぶようにアドバイスします。
例えば、
- 主食はお粥ならできるか?→全粥の作り方を指導する。
- かぼちゃを煮るくらいはできるか?→冷凍かぼちゃの紹介や、電子レンジ加熱をご紹介する。
- 卵豆腐・温泉卵・プリン・ゼリー・ヨーグルト等、そのままでも食べられる食品を常備する。
このように、家族を含めた相談を行っていきます。
実践!調理指導
ここからが調理指導です!
ここからが調理指導です!🍎
多くの場合は、きざみにするか?ペースト状にするか?が多いかと思います。
この場合も、上記の嚥下調整食分類に合わせた調理法を心がけます。
- 主食の形態は?→ご飯か?全粥か?全粥ペーストか?
- 副食の形態は?→きざみか?ペーストか?嚥下食分類の2?3?4?
嚥下調整食2の『ペースト食』なら、まずはミキサーにかけることです。
その際のポイントは、
『均質でなめらかでべたつかず、まとまりやすいもの』に調整すること。となります。
そのためにはやはり、それなりの調理器具が必要となってきます。
調理に必要な道具
ミキサー食(嚥下調整食分類2相当)の場合、まずミキサーがあると楽です。安価なものでよいので用意していただけるか相談します。
ミキサーでも良いのですが、1食分ずつ作るにはハンドブレンダーがおすすめです!(コードレスはなお最高です!)
*個人的には、こちらのハンドブレンダーがお勧めです!
ブラウン|マルチクイックハンドブレンダー安いものは5000円程度~あります。
また、アタッチメントなどを付け替えることによって、玉ねぎのみじん切りもできたり、泡立てを行うこともできます。離乳食づくりには大活躍してくれて、時間のない育児・介護には大活躍だと思います。
なので、将来的にも持っていて損はないかと思います。
あと、余談ですがコードレスが最高です!コンロの近くで使えたりとコンセントの場所を選ばず使えてストレスフリーです(*^^)v
ご用意が難しい場合はすり鉢・すり棒といった手段もありますが、毎日のことなので電動があると楽です。
ハンドブレンダーはかぼちゃのスープ等も鍋でそのまま作れるので便利です!とお話したりします。
かわいいカラーもあるんですね👇(ブルーノで出してるようです)
プレゼントとかで購入ならこんなのもいいかも❤
このセットでこのお値段♪おしゃれ。
トロミ調整食品
嚥下食の調整とあわせて行うのが、『トロミの調整』についてです。
ここも大事なところです!
1.は、入院中、トロミを病棟でつけている場合もあるので確認しておきましょう。
2.は、トロミの濃度により安全性も変わってしまいます。濃すぎるトロミは窒息の原因になります。
基本的には、再び↓
「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」
で示されている、学会分類に準じます。
- 薄いとろみ
- 中間のとろみ
- 濃いとろみ
の3段階となっています。
こちらも全国共通なので、どの濃さであるのか?を伝えてあげられるとよいでしょう。
病院では、ドレッシング状・ソース状などの表現が使われたりすることもあります。
患者さんには伝えやすい表現かもしれません。
病院ごとに、採用しているトロミ剤が異なると思いますが、
それでも、トロミ剤には水○〇mlにスプーン1杯(〇g)と3段階の表示が書いてあると思います。
だいたいが、この3段階にあてはまるようになっているはずです。
牛乳・乳製品にはトロミが必要か?
水分トロミのかたなんだから、つけるの当たり前でしょ。むしろ出してないでしょ。と、思われるかもしれませんが、実は「牛乳は飲めるので提供していた」という方もいらっしゃいます。
牛乳はストローだから飲めるという場合があります。(顎を上げずに飲むことができる。自分の意志で吸うことができるといった理由があります)
牛乳は摂りやすい栄養源です。ぜひ飲める方は、継続して摂っていただきたいですね。
ですので、確認しておき、家族にお伝えしましょう。
トロミ調整食品(トロミ剤)について・入手方法
トロミ調整食品の種類は様々です。その素材もいろいろあります。しかし、退院時にあたっては入院時と同じものというより、入手しやすいものを選択していただいてました。
そうなると、先ほど話した、薄いとろみ・中間のとろみ・濃いとろみ
となると、身近なところだとドラックストアだと思います。病院の売店に置いているところはそれも紹介しましょう。何があるか?は知っておきたいところです。
トロミ調整食品(トロミ剤) の使い方
だいたい説明が書かれていますが、一度実践してみると家族の不安解消になる場合もあります。
リンゴは、軽量カップとトロミ剤とスプーンを持って、家族のもとへ行き、どのように使用するかを指導していました。
その際、
- 使用量を決めて使用すること。
- 後からはトロミ剤は追加できないこと。(溶けずにダマなる為)
- ダマにならない混ぜ方。
- 二度混ぜ法。(一度混ぜたら、一旦置いて混ぜる方法。牛乳・濃厚流動食品に有効。)
- トロミが付きにくい飲み物。(牛乳・100%果汁ジュース。温度の低い飲み物。)
などについてお話していました。
その他の指導
低栄養・脱水予防
低栄養により、筋力低下→摂食機能低下 となる可能性もあります。
必要栄養量を十分に摂取できるように、他の指導と同様に必要エネルギー・たんぱく質を明示し、どのような手段で摂取するかを介護者と相談しましょう。
栄養補助食品の必要があれば、その入手方法は?どのような食品を選択すればよいのか?の情報が必要です。
入手方法
- ドラックストア
- スーパー
- 通信販売
- エンシュア等の薬局処方品
食品選択
- 水分可か?不可か?
- 水分不可の場合は、ゼリー状の食品を選択する。
近所のドラックストアには何が置いてあるのか?を知っておくと、
栄養指導の際にご家族に情報提供でき、安心されると思います。
その他:市販の介護食品
最近は、ドラックストア・スーパーなどでも介護食品売り場が充実しています。
退院時の嚥下調整食品の栄養指導では、
- 介護食品
- とろみ調整食品
- 栄養補助食品
のご紹介をすることになると思います。
実際にどこにあるのか確認するためにも足を運んでみましょう。
ユニバーサルデザインフード
介護食品には、『ユニバーサルデザインフード』のマークがついた食品があります。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021より
classification2021-manual.pdf (jsdr.or.jp)
リハビリ食器
また、自助食器(リハビリ食器)を置いているところもあります!
一緒にこんな話もできたら、患者さんやご家族の不安をひとつ減らせるきっかけになるのではないでしょうか?
こちら、市販の介護食器をまとめてみました。手に入りやすい100円ショップの食器もまとめています。↓
その他:嚥下体操
しゃべる筋肉は、食べる筋肉にもつながっているといいます。
お話したりすることも、摂食機能低下予防になります。
お話があまりできない場合も、頬や喉のマッサージをしたりすることで、筋肉が固くなって動きにくくなることも防げます。
その他:口腔衛生
お口の中の衛生は、誤嚥性肺炎のリスクにも関係します。
スポンジブラシ・舌ブラシ・保湿剤・先行剤・マウスウォッシュといった商品は、口腔内衛生に使用します。ドラックストアでも入手できるものもあります。
この辺りは病棟で指導が入るかと思いますが、知っていてもよいと思います。
コロナ禍の栄養指導
以前は食事の時間に家族が面会し、食事を見ることのできる機会もあったのですが、コロナ禍以降、それも少なくなったと思います。
ですので、ご家族の方も
「入院中にお見舞いに来て、食事介助したりして食事を見たことある。イメージがつかめている」という方が少なくなってしまいました。
ということで、まずはイメージが大事です。
現物がご用意できれば良いですが、そうでない場合は、写真などをご用意することでわかりやすいと思います。
病院独自のものがなければ、一般的な嚥下調整食品の写真でも良いかと思います。
ご家族が少しでも安心して食事の準備ができるために、栄養士ができることを考えていければなぁと思っています。
以上、少しでも参考になれば幸いです。
ありがとうございました!
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